街の入り口まで送らせて。そう言って、にこにこと笑うジョージは、いつも以上に、ぼんやりとしていたので、エルファスは、何だかぼんやりとして、うっかり 頷いた。






 昼、猫と






 空は高く明るいのに、矢鱈と眠たく成る午後だった。風が、真っ白な羊雲を押し流す。だが、ぼんやりとした昼の 空気は流れては行かない。葉に、椅子に、看板の陰に、ひっそりと貼り付き、生活を緩慢にする。 浸され、明るい光の中で、建物が、眠たそうに沈んでいる。洗濯物が翻り、日常に馴染み切った、 柔らかな色彩が溢れる。

 「そういえば、」

 唐突に、何かを思い出した様に言いかけ、ジョージが突然、立ち止まった。規則的に揺れていた、オレンジに近い、 明るいブラウンの髪が、控えめに揺れる。ジョージは、考え事をしながら歩く事が出来ない。浅く短い付き合いの中で、その癖を、 否応なしに学習させれていたエルファスは、動こうとしないジョージを追い越し、2歩先で立ち止まる。風が、子供たちの甲高い声や、 焼きたてのパンの匂いを運んで来る。今日は、不自然なくらい、何もかもが平和だった。

 「そういえば、路地裏に住み着いていた猫が子供を産んだんだ」

 ふわふわの薄茶色のメス猫なんだけど、子供は白と茶色が1匹ずつだったから、きっと、あの子たちの父親は、道具屋の裏の白い猫 なんだろうなあ。独り言の様にして知らされたニュースは矢張り、眩暈がするほど平和で、エルファスは、少し居心地が悪くなる。 叱られた子供の様に、爪先を見る。薄い雲の影が、のんびりと、地面を滑る。何処かに流れて往く。

 「でも、昨日、様子を見に行ったら、2匹とも、いなかったんだ」
 「…大方、誰かに拾われでもしたんじゃないのか」
 「うん、俺も、そうなら良いと思ったんだ。でも、さっき、いつも、猫に餌をあげてたおばさんに聞いたんだけど、」

 まるで、どうでもいい事の様に発音した心配事の続きを、ジョージは、妙に真面目な顔をして区切ってみせた。

 「喰っちゃったんだって」

 ジョージが何を言っているのか分からず、エルファスは瞬きをして、ぼんやりとした顔のジョージを見た。

 「母猫がさあ、喰っちゃったんだよ」

 屋根の上で、茶色い猫が、にゃあ、と鳴いた。






















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ジョージとエルファス。
21:59 2009/09/2322:00 2009/09/23

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