それは走馬灯だった。





 今際の際






 若い時分の軽率な行動を省みると、ちくりと、胸が痛む。
男の身体を通り過ぎていった幾人かの女達。守れなかったもの。狂ったような情熱。無知と蛮勇に浮れた剣。
かつて、素晴らしい若さと共に在り、そうして流れて行った思い出、或いは、過去という概念を形作る幾つもの記憶たち。
それらを、そっと、掬い、嗅ぎ、触れる時、男の胸裏に押し寄せる苦いものは、決して、後悔ではない。胸を満たす苦いものはきっと、未練だ。
 男は、後悔することの無意味さを良く知っていた。後悔は新しい後悔を生み、そして其れは、反省とイコールには成り得ないということ、 失敗を納得する為の形式的なものだということを、知っていた。肉体の衰え、つまりは歳を経た代償に得た経験は男を寛大にした。
「寛大に成る為には歳を取りさえすれば良い」そう言った哲学者はきっと正しい。犯されたどんな過ちを見ても、どれも過去に自分が犯し かねなかったものばかりだった。それだけの時を、男は生きてきた。生きてきてなお、更に生きたいと思う。



 男は瞼の裏側に銀色の剣のひかりを見た。眼球を刺すような閃きに、断罪されるような心地に成る。そして、事実、それは男を殺める為の剣だった。
大振りの剣が、纏った緋色の鎧を叩き割り、深く腹を抉る。恐怖や痛みよりも、熱さと息苦しさが勝った。
呼吸が儘成らず霞む意識の中、男は、その熱に何か赦しに似たものを思ってみたが、言葉にはならず、血の塊を吐き出しただけだった。
 視界が揺れ、男の頬を湿った地面が打つ。曇り空の下、かつての若い友が静かに咳払いをした。


















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ロストール攻略戦。アンギルダン追悼。



06,1,4