おはよう。新しい朝。新しいひかり。









 新世界









 絶望とは、黒くどろどろとした果てのない暗闇の様なものなのだと思っていた。それは、想像の中の絶望は、ジョージにはとても恐ろしいものの様に感じた。絶望の中で、ジョージは脆弱で、酷く無力な存在だった。 目を閉じれば、一瞬でも気を抜いてしまえば、永遠に、其処から逃れられないような気がした。
 ジョージにとって、怖いのは何時だって現実ではなく空想の世界だった。 現実とはただの事実に過ぎず、出来事とは一過性の現象に他ならない。現実のものは全て等しく時間に流され、記憶も感情も薄まっていく。 世界はとても平たく、平等で、眠たく成るようなものだった。世界はジョージに何も齎さない。無関係で、無関心に回り続ける。 ジョージにとって、世界とは、そういうものだった。其処に絶望や恐怖など介在する余地は無かった。




 今、ジョージの目の前に広がるのは、空想の中でジョージが怯えていた絶望の景色ではなく、ただの廃墟と化したかつての帝都だった。 朝の蒼褪めたひかりに照らされ、廃墟は静かに、ジョージを迎えた。 ひかりと静寂と風とが、無人の街をひたひたと満たしていた。首の落ちた女神の肩で小鳥が羽ばたく。酷く寂しい景色だった。だが、 ジョージは、とても美しいと思った。これが誰かの言う絶望の景色なら、絶望とは、やししいものなのかもしれないと、ぼんやり思う。
 一歩踏み出した足の下で、硬質だが脆く、乾いた何かが崩れる音がした。それがあの子の骨だったら良いのにと思った。 あの子の骨はきっと、眩暈を呼ぶ程に冷たく凍った白だろう。それは多分、この景色に良く似ている筈だ。過ぎた季節を思って、ジョージは目を細め、少しだけ笑った。




 終わってしまったのだ。
 終わらせてしまった。




 だが、ジョージは生きていて、世界は回っていた。此処で何かが終わり、何処かで何かがはじまる音を、ジョージは確かに聴いたのだ。 ひかりがゆっくりと地面を這う。朝に足元から侵食される。新しい朝。新しいひかり。明るい輪郭の景色にジョージは微笑みかける。
 おはよう。新しい朝。新しいひかり。終わってもなお回る世界。














06,06,18



此処に来て漸く前向きに成ってきたジョージさん。笑
一発目から比べると幾らか成長したか、な…?