「文章修行家さんに40の短文描写お題」からお借りしました。
リハビリ短文。



00. お名前とサイト名をどうぞ。また、よろしければなにか一言。
「福哂」。佐藤・C・キノ子。元文字書きです。





01. 告白
酷く苦しそうに語り終えた男の顔は、その声音と裏腹に安らいでいた。
懺悔とは、受け止められずとも、吐き出すだけで救われるものらしい。
(64文字)




 02. 嘘
「今日はちゃんと真っ直ぐ帰るから」
「信じてるよ」
彼女の口は何時だって、半分しか本当のことを言わない。
だけど、それはお互い様だ。
(63文字)




 03. 卒業
「明日から俺は、甘ったれた自分を卒業する!」
元気よく言い放った酔っ払いはそのまま床に沈んだ。
時計は既に「明日」を指していた。
(62文字)




 04. 旅
空想と現実の境界で遊ぶのが好きな子供だった。
其処にはいつも新しい発見と驚きがあった。
空想を止めた代わりに、私は沢山の本を読む。
(63文字)




 05. 学ぶ
学ぶべき事は沢山あるが、やはり実践に勝るものはないと思い知る。
すっかりヘソを曲げた子供を抱き上げ、育児書の散らばるリビングを出た。
(65文字)




 06. 電車
無愛想な鉄の箱。
せめて何処かの機関車くらい可愛げがあれば幾らか気が紛れるのに、と、
運転見合わせのアナウンスを聞きながら思った。
(63文字)




 07. ペット
ペンギンを飼いたい、と言ったら、
それなら、皇帝ペンギンにしなさい、と父が言った。
見栄っ張りの、実に父らしい言葉だった。
(59文字)




 08. 癖
半歩が一歩に、一歩が二歩に。
隣を歩いていた筈の母はいつの間にか5歩後ろにいた。
どういうわけか、母は歩きながら考え事が出来ない。
(63文字)




 09. おとな
煙たいキッチンで淹れる、二杯目の泥のようなコーヒーは
疲労と眠気と相俟って、胃の底で重く淀む。
全て、昔は知らなかったものだ。
(61文字)




 10. 食事
知らない家で食べる卵焼き。 母さんは、甘い卵焼きなんか絶対に作らない。
ぐにゃりとした甘さの中に途方もない偽善が隠れている気がした。
(64文字)




 11. 本
古い紙の匂いは潔癖だ。
煙草と香水の充満する部屋の中で唯一、清潔で、美しい。
中身が何であれ、古い物にはそれだけの誇りがあるらしい。
(64文字)




 12. 夢
剥がれかけたマニキュアは昨夜の夢の残滓に似ている。
褪せて終えば、残るのは、鼻をつく薬品の匂いと、惨めな今朝ばかりだ。
(58文字)




 13. 女と女
女が3つで姦しい、とは良く言ったものだと思う。
リビングに響く甲高い声に苦笑する。
母と娘である以前に、彼女たちは女同士なのだろう。
(64文字)




 14. 手紙
「必ず、手紙を書きます」
「未練たらしい事は止めなさい、私は、貴方の筆跡など見たくもないし
 気持ちなぞ、一片だって欲しくはないよ」
(63文字)




 15. 信仰
昔、狭い路地の先に古ぼけた神様がいた。
でも、ある日突然、神様は消えた。
道切りされたのだと、気付いたのはずっと後になってからだった。
(65文字)




 16. 遊び
「恐るべき子供たち」ごっこをしよう、と彼女が言いだしたのは本当に唐突で、
しかし、考えてみればやる事は結局、いつもと変わらないのだ。
(65文字)




 17. 初体験
飴玉よりも鮮やかな豆電球と陽気過ぎるジングルベル。
海面の水位が1度上がってから30年。
今年は、まるで嘘みたいなホワイトクリスマスだ。
(65文字)




 18. 仕事
子供は外で遊ぶのが仕事だなんて詭弁も良いところだ。
要するに体の良い厄介払いだ。
騒がしい居間を抜け、「仕事」をする為、靴をはいた。
(64文字)




 19. 化粧
小皺の間に溜まるファンデーションを見咎め、女は息を吐いた。
数年前に他界した母も、そうしていた事を思い出し、益々、沈鬱な気分になる。
(65文字)




 20. 怒り
鏡面に映る疲れた顔の女は、眠そうな表情をしていた。
「私は、とても怒っている」
そう言ってみても、怒りよりもただ疲労だけが重かった。
(64文字)




 21. 神秘
白血球、酸化、錆色、亀裂。
顕微鏡の世界を想像しようとして失敗する。
仕組みなど知らなくても、いつだって傷は勝手に治るものだ。
(61文字)




 22. 噂
「消えたり立ったり、振り回されたりするものはなぁんだ?」
そう言って笑った友人が、入院した。
人間関係の縺れ、という病気だそうだ。
(63文字)




 23. 彼と彼女
彼等を記述する試みは失敗だ。
結局、「彼ら」を記述する「私」がいる以上、どうしたって三角形だ。
点と点で、線だからこそ、美しい。
(62文字)




 24. 悲しみ
「今はもう疲れ過ぎて、ただゆっくり眠りたい、それだけなんだ」
葬儀が片付き、淡々と先生は言った。
この人は悲しいのだと気付いた。
(62文字)




 25. 生
死にたがりが薄く口を開き、放り込み、咀嚼。上下する生白い喉。
目が合い、私は笑う。
血に、肉に、微笑む。
食べることは生きることだ。
(63文字)




 26. 死
例えば、彼女の最期が穏やかであれ苛烈であれ、
それは、私には関わる事の出来ないものだ。
だけど、出来るなら穏やかであれば良いと思った。
(65文字)




 27. 芝居
こんなものただの演技さ、と男は笑う。
それなら、私も、多分、このひとを好きな振りをしているだけなんだろうと思った。
(56文字)




 28. 体
口腔一杯の湿った黒土が欲しい。
罵声しか吐かない口を塞げるなら泥を詰め込んだって構わない。
偶に、私の口は頭の言う事を聞かなくなる。
(64文字)




 29. 感謝
「ありがとう」という代わりに「ばかやろう」と言うと、
先生はいつも困った顔で笑う。
それに幾らかの安堵と失望を覚えるのはお互い様だ。
(64文字)




 30. イベント
60年代の衣装を着て練り歩く一団を見た。
どう好意的に言ってもイカレてるとしか思えないが、
少なくとも、彼等の方が余程、健全に見えた。
(64文字)




 31. やわらかさ
丸い滑らかな頬を突くと、楽しげな悲鳴が上がった。
丸い肩、丸い爪、丸い目。
子供というものは、どうして、どこもかしこも滑らかなのか。
(64文字)




 32. 痛み
小さい頃、ガラス瓶に蛍を入れた。
暗闇の中、それは小さな宇宙であり、同時に、瓶詰めにされた死だった。
心臓が嫌な音を立てるのを聴いた。
(65文字)




 33. 好き
彼女何て言ったと思う?
愛しているわ!貴方の隣人を愛する様にね!だと
気の毒だけど、博愛心豊かな奴は大抵人道的センスを欠いているものさ
(65文字)




 34. 今昔(いまむかし)
嘲りでも同情でもない、好奇心にすらない満たない目。
今も昔も、唯一掬い上げてくれるのは、きっとこの無関心さだけなのだろう。
(60文字)




 35. 渇き
強烈な喉の渇き、というものを経験した事は?
あれは本当に酷い。空腹で胃液を吐いた方がまだマシ。
会議前。正に今、そんな気分だ。
(61文字)




 36. 浪漫
景気、芸能、仕事の愚痴
或いは、国際情勢、環境問題
それらと同列に語られる父の昔話。
何と並ぼうが、幼い私にとっては胸躍るものだった。
(64文字)




 37. 季節
秋とは郷愁。春とは巡ってこない季節であり、夏は空想だ。
冬しかない国で生まれた女はそう言って、
見たこともない春を嗅ぎ、夏の色を見た。
(65文字)




 38. 別れ
いっそ、冷たい墓石にキスしてやろうかと考えて、止めた。
仮に温かかったとしても、それは自分の体温が移っただけの、つまらない熱だ。
(63文字)




 39. 欲
薄皮の下、澱む血液、青い痣。
余りに毒々しく痛々しいから、僕は馬鹿みたいに欲情した。
(41文字)




 40. 贈り物
考えうる限り一番無意味なものを頂戴。
彼女の電波はそれこそ今更だが、今回ばかりはお手上げだ。
僕は一人分だけ埋まった婚約届を睨んだ。
(64文字)




2010,01,26